序論 (Introduction)

 論文が報告書と決定的に異なるのは序論(Introduction)である。研究の結果は客観的なものであるが、それをどのような「切り口」でまとめるのかという点に、著者のオリジナリティーが現れる。報告書では、切り口があいまいでも、結果が正しく報告されていればよい。しかしながら論文では、著者のその研究に対する切り口が明確に示されなければならない。これが独創性である。論文のなかで結果に対する「切り口」という独創性が明確に現れるのが、Introduction と Discussion である。この点で、Introduction は論文のなかで最も重要な部分である。これまで気象集誌の編集委員をしていて、内容が同じでも Introduction の書き方次第で、リジェクトの論文が採択される論文に変わるのをいくつもみてきた。それほど Introduction は重要である。




 「序論」では主題を述べ、過去の研究を参照しつつ問題点をうきぼりにし、本研究のそれに対する切り口(あるいは著者の観点、さらにいえば哲学)を明らかにし、その意義づけと位置づけをおこなう。そのうえで本論文の目的、すなわち何を明らかにしようとしているのかという「問題」を提示する。Introduction は discussion と対を成し、intruduction で提示した問題に、result を用いて discussion で答えを出すようにするとよい。

基本的に introduction に含まれるべきことは、次のようなものである。
 Introduction の第1段落目が重要である。これで読者をこの論文を読む気にさせなければならない。第1段落目には論文の「主題」とそれについての「問題点」が、なぜそれが重要な対象であるのかということとともに述べられなければならない。たとえば、「日本海上のpolar lowの発生メカニズム」を主題とする論文で、「それが傾圧的であるのか順圧的であるのかあるいは非断熱加熱によって発達するのかが未解明である」という問題点があるとする。「メカニズムの本質はエネルギー源を示すことにあるので、これらを明らかにしなければならない。メカニズムによって発達の速度が異なるので...」などの意義付けができるだろう。また、メカニズムの解明がその予測につながるなどの実用的な意義付けも考えられる。気象の研究は予測などの実用的な意義があることが多いので、その点ばかり主張して意義付けをしようとすることがあるが、それは付加価値であって、もっと理学的な (science としての)意義を追求するべきである。

 第2段落目から、その主題についてのバックグラウンドを、問題点の意義とこの研究の意義を浮き彫りにするように述べる。このときすでに分かっている内容について、過去の論文を参照しながらバックグラウンドを述べるのであるが、原著論文の序論は過去の研究の総合的レビューではないことを肝に銘じておくべきである。その主題についての数ある論文のなかで、この研究の意義を浮き彫りにできるように、過去の研究を取捨選択して、適切に引用しなければならない。その上で、自分の研究の「切り口」の位置づけと意義が明確になるように書く。取捨選択するときに、すでに分かっていることをまだ分かっていないかのように、引用するべき論文を無視するようなことをしてはいけない。序論は論文の方向付けをするところであるが、自分の主張に有利なものだけ引用するような書き方はフェアーではない。論文は常にフェアーでなければならない。

 過去の研究を引用して、その主題について何が未解決な問題点としてあげられるのかを述べ、本研究のその未解決点に対しての新しい点、研究の「切り口」を明らかにする。そのとき "important" や "interesting" という言葉をできるだけ用いないで、読者にその問題点の重要性や興味深い点、本研究の「切り口」の位置づけが分かるように書く。むやみにこれらの言葉を使って、意義を説明しようとするとどうしても独りよがりの主張になりがちである。できるだけこれらの言葉を使わずに読者が「うん、それは確かに重要で興味深いね」と納得できるような文章がよい。

 Introduction でしばしば、これから論文に書こうとしている研究の結果を用いて、目的や意義を説明しようとする初心者がある。結果は序論ではなく本論に書くものである。序論には結果を含めてはいけない。ただし、観測域を示したり、用いたモデルがどのようなものであるのかを書くのはよい。観測域や研究対象域を示すのに、Fig. 1として図を用いてもよいが、序論には図はできるだけ用いないのが通常である。

 もしその研究があるプロジェクトの一部であれば、プロジェクトの紹介をここに含める。プロジェクトの目的や研究代表者、観測場所などの概要を述べ、その中で本研究がどのように位置づけられるのかを述べる。プロジェクトの詳細については、「研究の方法」のところで述べるので、概要にとどめる。また、モデルを用いた研究についても同様で、モデルの概要とそれをどのような目的で用いたかの概要を述べる。モデルの詳細や実験の設定については「研究の方法」に詳しくまとめる。

 Introduction の最後の部分で、本研究の目的を明示する。
"The preset study aims ..."
"The purpose of the present study is ..."
などのように、論文の目的がはっきり述べられているのがよい。



論文のアウトライン

論文の書き方