竜巻シンポジウム
−わが国の竜巻研究の今後の課題と方向性−

「積乱雲と竜巻のシミュレーション実験」

坪木和久
(名古屋大学地球水循環研究センター・地球環境フロンティア研究センター)




1. はじめに

 北海道佐呂間町や延岡市で発生した竜巻など甚大な被害をもたらす竜巻が続いて発生していることから、竜巻の予測について関心が高まっている。人的被害を軽減するためには発生予測が不可欠である。竜巻の予測には、ドップラーレーダーを用いて積乱雲を検出することで予測する方法がある。一方で近年の計算機のめざましい発達により、竜巻をもたらす積乱雲の発生をシミュレーションすることで、竜巻発生のポテンシャルを予測する方法が考えられる。前者の方法では積乱雲が発達してからでないと予測できないが、後者の方法では計算機が高速であれば、数時間前から竜巻ポテンシャルを予測することができる。

 名古屋大学地球水循環研究センターでは、暴風や豪雨雪をもたらす気象のシミュレーションを目的として、雲解像モデルCReSS (Cloud Resolving Storm Simulator)の開発を行ってきた。このモデルは非静力学・圧縮系を基礎方程式とするシミュレーションモデルで、地球シミュレータなどの並列計算機で効率よい計算を行えるように設計されたものである。このモデルを用いて、竜巻とそれをもたらす積乱雲のシミュレーションを行った。このシンポジウムでは、1999年9月24日に豊橋市で発生した竜巻と、2006年9月17日に延岡市で発生した竜巻について、このモデルを用いた竜巻とそれをもたらした積乱雲についてのシミュレーション結果を報告した。また2006年11月に佐呂間町の竜巻についても、初期的な結果について報告した。

 竜巻は積雲や積乱雲などの対流雲に伴って発生する鉛直軸を持つ渦のことで、大気中の渦、じん旋風や火炎旋風などとは、対流雲によって生成・維持されるという点で区別される。気象庁(1988)は、「竜巻は積雲、積乱雲などの対流雲に伴って発生する鉛直軸まわりの激しい渦で、しばしば漏斗状や柱状の雲を伴う。」と定義している。ここでは数値シミュレーションの結果から竜巻を判別するために、力学的に厳密な定義を与える。すなわち、竜巻とは「遠心力と気圧傾度力のバランス、すなわち旋衡風バランスが極めて高い精度で成立している大気の渦」であると定義する。シミュレーションの結果の渦度から、これが成り立っている場合、竜巻がシミュレーションされたと判定することにする。経験的に竜巻の場合、その渦度は0.1〜1/s程度になる。(スーパーセルは 0.01/s以上)。

 竜巻のシミュレーションでは、上記の定義のように遠心力と気圧傾度力のバランスが成立する渦が再現されなければならない。このため実験の解像度は数10mであることが必要である。このような計算は非常に大規模になるので、膨大な計算機資源が必要である。豊橋市と延岡市の竜巻について、そのような大規模なシミュレーション実験でこれらの竜巻がどの程度再現されるのか、また、予測された竜巻がどのような構造を持ち、その親雲の積乱雲とどのような関係があるのかなどについて示した。さらにこの結果をふまえて、雲解像モデルによる竜巻予測の可能性について話題提供した。