竜巻シンポジウム

−わが国の竜巻研究の今後の課題と方向性−

日時:平成19年1月23日(火)13:15〜17:00
場所:気象庁講堂


「積乱雲と竜巻のシミュレーション実験」

坪木和久
(名古屋大学地球水循環研究センター・地球環境フロンティア研究センター)


講演要旨

 竜巻とは「遠心力と気圧傾度力のバランス、すなわち旋衡風バランスが極めて高い精度で成立している大気の渦」と定義できる。このような渦は直径が数100m以下であり、通常、暴風を伴っており、しばしば災害をもたらす。そのような渦、すなわち竜巻はある特別な積乱雲に伴って発生する。スーパーセルはそのような積乱雲の代表的なもので、台風や寒冷前線に伴って発生することが多い。このため我が国ではこれらの大規模擾乱の付近でしばしば竜巻が発生する。

 北海道佐呂間町や延岡市で発生した竜巻など甚大な被害をもたらす竜巻が続いて発生していることから、竜巻の予測について関心が高まっている。人的被害を軽減するためには発生予測が不可欠である。竜巻の予測には、ドップラーレーダーを用いて積乱雲を検出することで予測する方法がある。一方で近年の計算機のめざましい発達により、竜巻をもたらす積乱雲の発生をシミュレーションすることで、竜巻発生のポテンシャルを予測する方法が考えられる。前者の方法では積乱雲が発達してからでないと予測できないが、後者の方法では計算機が高速であれば、数時間前から竜巻ポテンシャルを予測することができる。

 名古屋大学地球水循環研究センターでは、暴風や豪雨雪をもたらす気象のシミュレーションを目的として、雲解像モデルCReSS (Cloud Resolving Storm Simulator)の開発を行ってきた。このモデルは非静力学・圧縮系を基礎方程式とするシミュレーションモデルで、地球シミュレータなどの並列計算機で効率よい計算を行えるように設計されたものである。このモデルを用いて、竜巻とそれをもたらす積乱雲のシミュレーションを行った。このシンポジウムでは、1999年9月24日に豊橋市で発生した竜巻(図はシミュレーションされた竜巻)と、2006年9月17日に延岡市で発生した竜巻について、このモデルを用いた竜巻とそれをもたらした積乱雲についてのシミュレーション結果を報告する。また時間が許せば2006年11月に佐呂間町の竜巻などについても言及したい。

図:雲解像モデルCReSSを用いて行った豊橋市の竜巻のシミュレーション結果。スーパーセル内部に発生した竜巻を3次元的に表現したもの。白く煙り状に見えるのが渦度を可視化したもので、竜巻を表している。下面のカラーは地上の温度偏差。温度偏差の先端(ガストフロント)で、竜巻が発生している。これは南側からみた図である。


 竜巻のシミュレーションでは、上記の定義のように遠心力と気圧傾度力のバランスが成立する渦が再現されなければならない。このため実験の解像度は数10mであることが必要である。このような計算は非常に大規模になるので、膨大な計算機資源が必要である。豊橋市と延岡市の竜巻について、そのような大規模なシミュレーション実験でこれらの竜巻がどの程度再現されるのか、また、予測された竜巻がどのような構造を持ち、その親雲の積乱雲とどのような関係があるのかなどについて示したい。さらにこの結果をふまえて、雲解像モデルによる竜巻予測の可能性について話題提供する。



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